
「モジャ公」 全2巻(サンコミック版) 作者:藤子F不二雄
あなたはF先生の作品の中では、なにが一番好きでしょうか?
むずかしい質問ですね。
すいません。一週間ほど考えさせてくださいって、いいたくなりますね。
それで、あなたがやっとひねりだす答えは、なにになります?
異色短編集?
21エモン?
エスパー魔美?
ウメ星殿下?
チンプイ?
それとも、バウバウ大臣?
ボクの場合は、考えに考えて、あえて答えをだすとすれば、この「モジャ公」になると思う。
後になって知ったけど、F先生自身が自分でもっとも気に入っている作品はモジャ公だって言っていたそうな。
それを聞いたとき、ああ、ボクはF先生と一緒か、ボクはF先生世界の魅力を本当に理解している、本当のファンなんだな、って思えてうれしかった。
自慢? もちろん自慢ですよ。ハイ。
F先生の作品には、しゃれっ気というか茶目っ気というか、独特なユーモアと遊び心があって、モジャ公にはとくにそれが強くでている。
さらに、ぼんくら具合が随所に炸裂していて、とても居心地のよい世界だ。
モジャ公は、F先生のSF(少し不思議)世界とは、ちょっと毛色が違うような。スペースオペラ、というよりも、スペースぼんくらオペラって呼びたいな。
気だるさが漂ってて、とってもいいカンジ。
モジャ公は、F先生自身も楽しんで、ノリにのって描かれたんじゃないかなって思う。
物語の概略を簡単に言うと、こう。
さえない小学生の男子が、土管の上でぼんやりして、なんかおもしろいことないかな〜と考えている。
そして地球にやってきた、さえない宇宙人とさえないロボットが、このさえない小学生をさえない者同士として仲間にひきいれて、宇宙を旅するというお話。
そして、彼らが行く先々の星の世界が、思いつく妄想をそのまんま絵にしたというか、もう、たまんない世界だ。
特に好きなエピソードとして、なんといっても圧倒的なのは、シャングリラ編だ。
怖い。このエピソードは怖いぞ。
なにが怖いって、シャングリラに取り込まれることを望む心を否定しきれない自らの心が怖い。
シャングリラは、この世の地獄とも、天国や楽園とも称される。
その星では、ほしい物は思い浮かべるだけで、いくらでも手にいれることができる。
好きなものを好きなだけ食べて、ほしい物を手にして、思う存分、享楽をむさぼることが出来る。
だがじつは、楽園のように感じていたのは、自分の感覚だけ、つまり脳がそう感じていただけであって、自分の肉体、現実はそうではなかった、という世界。
シャングリラの人達は、魂と肉体を分離する技術に成功し、彼らは肉体を切り捨て魂だけで生きている。
し、しびれる。マトリックスより遥かにクールだ。
マンガ者の共通言語で言うと、諸星大二郎の短編「夢見る機械」で示されたテーマか・・。
底冷えするほど退廃的な世界で、表面上は少年マンガらしく、ワクワク冒険を繰り広げるギャップがたまらん。
この回では、サブキャラのタコペッティの印象が強烈なんだ。
タコペッティは、映画に全てを捧げた、プロ中のプロの映画監督で、狙った映像を撮るためなら命の危険もかえりみない、という男。
そんな彼のキャラクターがシャングリラ世界では特に際立つ。
奴はシャングリラの誘惑も論理もやすやすとはねのけ、自分の死を見据えた上で、はっきりと、こう言い切る。
「見せかけの世界だね。」
タコさん、かっこいい。惚れそう。
タコペッティのキャラクターとシャングリラ世界との対比は見事ですよ。
彼のおかげで救われた気がする。ム、救世主はネオじゃなくてタコさんか!?
ほかには、自殺フェスティバルのエピソードが、とりわけブッちぎれてる。
数あるF先生の作品の中でも、相当にシャレがきつい。
この星の人達は、細胞が老化しないため死なない、いや死ねない。皆、生きることに飽きている。
「死ねないということは恐ろしいことよ。」
モジャ公が惚れた、この星に生きる女の子(トリスのキャラクターみたいなデザインだ)のセリフだ。
そして、主人公3人組はあることから、この星のスーパースターになってしまう。
3人組が知らないうちに、自殺フェスティバルの企画が進められて、いつのまにか3人組は、自殺しなけりゃいけない状況になっている。
当然、3人組は逃げ出そうとするんだけど、この星の人達が自殺フェスティバルに熱狂して、死ぬことが出来る彼らに羨望のまなざしを向けるもんだから、なんとなく逃げづらくなる。それどころか、3人組が雰囲気に流されて、いっちょ死んだろうか、みたいに思ったりするところがおもしろい。
非常にシュールで、シャレが利いてて、なにやら哲学的ですらある。
ボクは、この星の街に流れる倦怠感がなんとなく好きだったりして。
ま、モジャ公とはだいたいこんなカンジのマンガだ。
へっぽこな主人公どもだから、へっぽこさゆえに危機に面してさっそうと振舞うという訳にはいかない。
だけど、これこそがF先生だな、と感じ入るのは、このへっぽこさゆえなんだ。
作中にあった、もっとも感動的なセリフ。
「どう、感動した?」
どんな場面でのセリフかは実際に読んでみてください。
本当に、「感動した!」と叫ぶ、と思うよ。
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