
プレイボール 週刊少年ジャンプ 全22巻 作者:ちばあきお
プレイボールは野球マンガの名作として今なお名高い。
努力家の主人公が弱小の野球部をひきいて勝利に導いていくという、内容それ自体はありふれてるというか、スポーツ漫画には常にある普遍的な物語だ。
プレイボールで築かれた路線はその後にも受け継がれていて、パターンだけは常に目にすることができる。
「山下たろーくん」や「イレブン」(これはサッカー漫画だけど、原作者の七三太郎がちばあきおの実弟だったかいとこだったかで、魂的にはプレイボールに相当近い。)、「第三野球部」、「風光る」などなど。
目標にむかって努力することの尊さを描いたこれらの作品はちばあきおの世界に近いといえばいえるし、実際によく比較して論じられてもいる。
ポジション的にはプレイボールの後継者といっていいと思う。
ボクは風光るの純粋さは好きだよ。山下たろーくんはこせきこうじの独特な味が出てたし、イレブンはとてもよかった。
でもね、だけどね。ボクはそれでもプレイボールと同列に並べてほしくない。
やっぱり特別なんだよ、プレイボールは。
ちばあきおが創り上げた世界は、一線を画する全く別次元の面白さを持ったものなんだ。
漫画的誇張が小さく、表現があまりにも平明なこの作品は、この手の作品でセールスポイントとなる、平凡な才能の主人公が努力して目標に達するという、読者が抱く夢想をかなえることによる快感さえも控え目だ。
墨高野球部のキャプテン谷口は、強豪チームと比較して自軍の少ない戦力を嘆くような感傷を持ち合わせていない。
現状の戦力で勝つために必要なことをひたすら積み重ねていくだけ。
努力とか根性とか、そんなことはすでにどうだっていい世界だ。
プレイボールという作品を前にして、ボクら読者はただただ、少ない戦力でしぶとく粘り強く戦うチームと、大きな戦力を持つチームとの対戦を、固唾を飲んで見守るだけなんだ。
墨高野球部が、強豪 専修館を打ち破ったのは決してフィクションじゃない。
十分な説得力をもってボクらの胸に届く。
そしてそれは敗れ去る姿についてもいえるんだ。
凡人がいくら頑張ったところで本当に強いチームには勝てない。
それが現実なんだ。
そしてプレイボールは未完のまま終わった。
あの、あきらめというものを知らない男が、本当に強いチームというものを知って、その力量の違いに、へたり込んでしまいそうな衝撃を受けて…。
それでも、それでも、いつの日か墨高野球部が甲子園ヘ行く日が来るだろう。
そうだ! ボクたちプレイボール馬鹿は、みんなそう確信している。
プレイボールには他の誰にも真似できない地に足ついた確かな面白さがあるんだ。
なんかイキオイあまって、少しネタバレしちまったことを許してほしい。
でも大丈夫。この程度のことでプレイボールの面白さがそこなわれることはまったくないから。
それにしても、プレイボールは不思議な作品だよ。
平明な絵。
平明な表現。
地味だけど、たしかな物語がじっくりと丁寧にすすむ。
どういうわけか、それで少年マンガとして見事に成立しているから不思議だ。
この作品は結構むかしになるけど、ボクは今まで生きてきてプレイボールを嫌いだという人にあったことがない。当たり前といえば当たり前だけど。
普遍性があるんだと思う。
今の読者には、ちばあきおのシンプルで自意識というものを感じさせない絵はかえって新鮮だと思う。
絵としての色気をだすとか、一枚の絵としても成立させようなんて野心ははなっから捨ててるようで、だからこそ読者は絵にひっかかりを感じることなく、マンガそのものに没頭できる。
さすがに最初はね。今の読者ならマンガ好きであっても、絵がダセエ!なんて感じるかもしれないけど、シンプルな絵だから特に抵抗を感じることはないだろうし、読みだせば、あっというまに引き込まれるよ。
この名作はぜひとも読んでみるベシだよ。
んで、できれば氏による別の作品に「キャプテン」というのがあるんで、これとプレイボールを併せて読んでいただきたい。
なぜかっていうと、プレイボールとキャプテンは時間がつながっていて、キャプテンで登場したキャラクターがプレイボールでも登場したりして、両方読んだほうがより楽しめるからです。
キャプテンはプレイボールとは作品のコンセプトがちょっと違う。テイストは近いけど、また違ったおもしろさがあるんだ。
次にキャプテンを紹介しよう。
キャプテン 月刊少年ジャンプ 全26巻
プレイボールと同じく野球マンガだけど、こちらは中学野球が舞台です。
特定の主人公をすえないで、その代その代のキャプテンが順繰りに主人公をつとめます。
プレイボールの主人公である谷口君から始まって、谷口君の卒業後は丸井がキャプテンになり、その後はイガラシ、そして近藤、と続きます。
プレイボールと違って、チーム自体に視点を定めているから、その時々のキャプテンの個性が、雰囲気やチーム作りにも現れていて、試合以外でもそういうあたりがスゴクおもしろい。
全巻読み終えると感慨深いものが残るよ。
それぞれのキャプテンが成し遂げた功績、後に残すもの。やはりそれは、それぞれ彼等一人一人にしかできなかいことで、大会での実績というのは表面的な評価でしかないよなあ、なんて、いやはやキレイ事みたいな結論を、実感としてそう思えるんだよね。
個人的には近藤のチーム作りが好きでね。近藤の元で才能をひらこうとする部員には、イガラシの代だったら真っ先に落ちこぼれていくような部員だったりする。
このあたりに個性が現われるんだな。
近藤のおおらかで多様性に満ちたチーム作りは、直接、勝利には結びつきにくいかもしれないけれど、ボクは好きだな。
イガラシは確かに強いチームを作ったけど、ちょっと行き過ぎのところがあったからね。
谷口はたぶんそれがわかっていたから、自分の次のキャプテンを丸井にしたんだろう。
あー、ダメだ。なんかキャプテン語りだしたら止まんなくなってきた。
まあいいや。続けよう。
イガラシは行き過ぎてるっていったけど、その反面、ナインの意気込みと決意はとてもアツイ。
それにイガラシの行き過ぎた面は、学校でも問題にされていて、ついにあることがきっかけで、あることになってしまう。
ショックを受けたイガラシが呟くセリフの、…そのアツさといったら、もう、もう、タマラン!
あと、試合の緊迫感が尋常じゃねえよ。
対江田川戦のキリキリする緊張感はどうだ。
対和合戦において、試合が一時中断されたときの、なんとも落ち着かない感じというか、気持ちをどう切り換えるべきか惑うもどかしさというか、未消化な感情がなんともいえん。
いや、ホント、おもしろいんだ。キャプテンは。
未読のヤツラ、いいなあ。これから、プレイボール全22巻とキャプテン全26巻(集英社コミックスの場合ね。)と、こんなにも楽しめるのか。
にくいよ、このッ! うらやましいぞ。
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