味平カレーを喰らう
「包丁人味平」(作者:ビッグ錠 原作:牛次郎 掲載誌:週刊少年ジャンプ 集英社コミックス全23巻)


包丁人の聖地”包丁塚” (於:上野公園内 不忍池 撮影日:2005年4月17日)


「包丁人味平」は、今から30年くらい前に週刊少年ジャンプで連載していたマンガである。
料理マンガの草分けともいうべき作品でありながら、単純に味だけを追求する勝負でなく、大衆の嗜好やコスト計算といった、現実に店舗を経営する上で無視できない要素をきちんと絡めており味わい深い面白さがあった。
余談だけど料理マンガは今でこそ山のようにあるけれど、店舗を経営していく上で、料理の価格設定まで真面目に
捉えたマンガって、もしかして味平以外だと、「おなかはすいた?」(作者 東城三紀夫)くらいかも?

包丁人味平は、全23巻のうち前半部分のほとんどが料理勝負、というよりも料理の技術勝負を行っていた。
この前半部分は見ていてつらい。
味平はうまい料理を作りたいだけなのに、状況がそれを許さず、無理やり不毛な技術勝負に巻き込まれてしまう。
そうした彼にとって長い溜めの期間をへて、ようやく念願だった大衆料理に挑めるようになる。
本当の意味で、味平が輝きだす。それがカレー戦争編だ。
ここに至り、味平は大衆というものを、その傾向と心理まで考えて味を追求するようになる。
カレー戦争編では、味平から、大衆料理に従事する者としての意地と誇り、譲れない美学を引き出した。
味平が命懸けで追い求めた理想のカレー。
このたびは、それを出来る限り再現していこう。

 

 

  味平カレーをつくる

味平カレーとは、一言でいっちゃえば醤油を混ぜたカレーだ。
他にもいろいろ重要な要素があるけど、おいおい説明していこう。

まずは、材料だ。

味平カレーは、材料自体はオーソドックスだ。
用意したのは、ジャガイモ・人参・たまねぎ・豚肉。
スーパーで買ってきた。
味平カレーの値段は、300円。
安くて誰にでも気軽に食べられる。
ずなわち、材料はどこにでも手に入るありふれた素材だ。

肉を牛にするか豚にするかは結構迷った。
というのも、味平が他店へ研究に行く時は、いつもビーフカレーを注文していたからだ。
しかし、当時は今以上に牛肉が高価だったし、やはり値段を考えると豚肉だろうとは思う。
というわけで、豚肉を選ぶことに。鶏肉だと上品過ぎるので、味平カレーの性質上ちょっとないだろう。

そして、カレー粉。
これは、S&Bのカレー粉に間違いない。
作中にもそのような描写があった。

S&Bといえばカレー粉の代名詞ともいうべきカレー粉。
メーカー名にピンとこなくても、このデザインに見覚えがあるという方は多いはずだ。

 

ジャガイモ、人参、玉ねぎを切って鍋で軽く炒める。
もうひとつのコンロでは、フライパンでみじん切りにした玉ねぎを炒める。
炒めた玉ねぎを鍋に加え、水700ccとブイヨンを加えて約20分間煮こむ。

ボクの家にはコンロ(しかも電気)が一つしかないので、カセットコンロを引っ張り出す。不便だ。

 

いよいよ、肝心のルウ作り。
フライパンにサラダ油をしき、小麦粉を炒める。
きつね色になったところで、カレー粉を加えて混ぜる。
これに煮汁を入れてのばし、ルウが完成。これを鍋に入れる。


実をいうとルウ作りで一度失敗して焦がしてしまった。
再度作りなおして鍋に入れたのが、上の写真。
ちゃんとカレー粉からカレーをつくるのって初めてだから、うまくいったのかそうでないのか・・。
いちおう、見た目はカレーっぽくはある。

さて、これに調味料を入れてひと煮だちすれば、普通のカレーが完成する。
が、醤油をどのタイミングで入れるか?
味平カレーを生み出すきっかけは、出来あがったカレーに偶然醤油をこぼしたことから始まった。
ということは、ベースとなるカレーを完成させてから醤油を加えることになる。
とはいえ、すっと完成後のカレーに醤油を加えて味付けしていったかは分からない。
煮だたせる前に、醤油を入れて味付けした方がルウになじむ気がする。
そういうことで、煮だたせる前に醤油、他調味料で味付けをした。

 

醤油の量は、お玉一杯程度。多いかな?と思ったけどそうでもなかった。
まずはケンカカレーが完成。

出来あがり〜♪
と、いいたいところだが、この段階では、まだ本当の味平カレーではなく、ケンカカレーである。
醤油を落としてしまったカレーを味見して、なにか閃くものを感じた味平は、佐吉さんと大丸に
その味の感想を求める。
しかし、彼らの返事はかんばしくなかった。

「どことなくカレーと醤油がケンカしてるような味なんだよなあ。」

まずは、ケンカカレーを試食することにしよう。
食った感想は、というと、これが結構うまい。
作品の設定上は、醤油とカレーの味がケンカしているとのことだが、ボクには気にならなかった。
思えば、ボクは小僧の頃よく、皿に盛られたカレーの上から醤油をたらして
味平カレーもどきを味わっていた(当時こういうヤツ、一杯いただろうネエ)のだ。
ケンカカレーには、充分に慣れ親しんでいたためか。
もっとも、牛次郎がストーリー上必要な構図として、あえて、”カレーと醤油がケンカしている”
ことにしたのかもしれない。

 

  味平カレーの最終形

佐吉さんは、人間のケンカを解決する方法を話す。

「ケンカしたもの同士を倉庫に押し込めちまうのよ。そりゃあ、最初の頃はバッタンバッタンやってるさ。
だけど、しばらくして様子を見に行くと。なんのことはねえ、二人ともニタニタしながら博打なんかやってんのさ。
人間のケンカならことは簡単だけど、コレばっかりはねえ・・・。」

実は佐吉さんが言ったこの例えにケンカカレーを解決する方法があったのだ。

カレーを一晩寝かせる。

そのまんまですな。

味平カレーに限らず、普通のカレーでも一晩寝かせると、味がなじみ
ルウにとろみが出ておいしくなる。

実に簡単なことだった。

これで、味平カレーの基本形は完成ということになる。
が、しかし大衆向け料理としての味平カレーは、まだまだこれだけでは不充分なのだ。

カレー戦争編において、味平がカレーの味以外に追い求めていた大きな目的。
それは、

”一種類の辛さで、万人が食べられるカレーを作る”

どの程度の辛さで、カレーの味を設定するか?
この問題は、カレー戦争の始まりから、いや、ある意味でこのテーマは包丁人味平が始まった時から
ずっと続いている大きな大きな命題である。

味平のライバルであるインド屋では、この問題に対して早々に結論をだしていた。
それは、複数の辛さのルウを用意して、客に好みの辛さを選ばせるという方法。
インド屋方式は、現実にいくつかのフランチャイズのカレー店において実際に採用されている。

味平はこの方法を潔しとしなかった。
味平は、一つのカレーで、皆がうまいと思えるカレーを求めた。
実をいうと、味平が大丸デパートでカレー屋を営んでいた頃は、インド屋に近い方式で辛さの問題を解決していた。
インド屋と違う点は、客に選ばせるのでなく、店側で客の好みを判断して、客にあったカレーを
出していたということだ。
大吉という力強いブレーンがいたからこそ出来た芸当で、大吉は客の好みを見た目で見切ることが出来る。
だけどこれは、インド屋方式に比べて、スマートなようでいて実はリスクを伴う。
客の好みを見誤ることもあるだろうし、客の側だって気分によって辛いのを食べたい時や辛さを抑えたものを
食べたい時もあるだろう。
素直に、客に選んでもらった方が、てっとり早い。
味平は、なぜインド屋方式をそっくりマネなかったのか?
おそらくこれは彼の美学なのだ。
ボクには、味平が料理に何を求めているのか、分かってるわけではないけれど、
だけどインド屋方式に、どこか引っ掛かるものを感じたであろうことは確かだと思う。
彼のこだわりは、なんとなく分かるような気がする。

「なにも万人に好まれる必要などないではないか!」
「いや、そもそもまた店に戻れば、以前の方法で辛さの問題は解決するんだ!」
「1種類のルウで万人に好まれるなんて、できっこないんだよ!」

仲間達の本音による助言だ。
もっともだと思う。妥協でもなんでもないと思う。だが、味平はなおも求め続ける。

「できる・・・。
何故だかわからない・・・、でも、できるような気がするんだ。」

大衆料理というものを追求していく上で、避けてとおれない永遠のテーマに、味平は真っ向から挑む。

熱い!
熱いですよ。カッコイイですよ。
団秀彦じゃないけど、汗の味、努力の味が、誌面を通してビシバシ伝わってきますよ。

味平よ、一体どのような方法で辛さの問題を解決するのだ?
どうするんだ? 味平!
どうするんだ。

辛さの問題を解決する方法、・・・それは、

 

カレーに福神漬けをそえる。
お水をだす。

 

あ〜、そこそこ、ズッコケないで。マジですから。

おんどれの店わあ、今までカレー屋のくせに漬物が置いてないどころか、
客に水もださんかったんかい!ボゲェ!

とかいう、お怒りも抑えてください。
コレだけだと当たり前なんだけど、味平カレーがカッ跳んでるのは、その辛さのセッティングなんですよ。
味平は、カレーの辛さを、激辛に設定した。
福神漬けとかラッキョウとか、カレーに添えられる漬物には、辛さを中和させる働きがあるそうです。
つまり、漬物を添えることで、誰にでも辛いカレーが食べられる。(そうかあ?)

そして、もともと辛いのが平気な人は、水を飲みながらカレーを食べればいい。
辛いカレーを食べていると口の中がしびれる。そして水を飲む。すると、口の中の辛さがすーと洗われて
うまみだけが口に残り、ふたたび辛いカレーを食べたくなる。
この図式は、味平が漬物ばあさんのところで、朝鮮漬けを食べたことがきっかけになった。
(この朝鮮漬けもまた、ボクの漫画メシ心をくすぐる、実にうまそうな朝鮮漬けなんだよなあ。くふぅ〜、食わせろ〜。)

「そうじゃ、朝鮮漬けは水と交互に食べだすとキリがないんじゃよ。」(by漬物ばあさん)

 

 

  味平カレーを喰らう

 

味平カレーの最終形を喰らうゼ!
一晩寝かせたカレーに、ガラムマサラをどっさどっさ振りかける。
続いて七味も、どっさどっさ・・・、いいのか?

福神漬けだけは、上野にあるなにやら老舗っぽい漬物屋で上等そうなのを買ってきた。
味平カレーの食材はチープだろうけど、一点、福神漬けだけは、漬物ばあさんから安く卸してもらった
(あるいは譲り受けた)サイコーの福神漬けに違いない。(オレ想像、オレ設定)

水は、単に冷蔵庫で冷やしたミネラルウォーター。
(今気づいたけど、1日置いてカルキが抜けた水道水にすればよかった。失敗。)
作中には、適性の水の温度が設定されていたけど、まあいいや。


味平カレー完成。

カレーを皿に盛り、福神漬けと冷たいお水を添えて、完成。

うおおおー!!
うまそうじゃあー!!

ガツガツガツガツ
ポリポリ
ガツガツガツガツ
ごくごく・・
ガツガツガツガツ
ポリポリ
ごくごく・・
ガツガツガツガツ
ポリポリ
ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ・・

チャリーン

ごっく、ごっく、ごっく・・

ダーン!

 

ふう・・・

喰ッたでぇー!

あ〜、まんぞくまんぞく。
カレーは辛いからこそ、うまいんだ!

 

さて、最後に総括なり。
うまかったけど、失敗した点やあらためて気付いた課題が分かった。

味平は、どうやって辛味を付けたのか?

今回、ボクはガラムマサラで辛味付けしたけど、これが大失敗だった。
トウバンジャンみたいなものにしようか、単純にトウガラシにしようか色々迷ったんだけどね。
カレーとしては別に悪くないんだけど、ガラムマサラを使ったために、スパイスっぽさが強過ぎて
味平カレーのイメージから、かけ離れた味になってしまった。
きっと、味平カレーの辛さというのは、ものすごく辛いんだけど水を飲んだだけで、スッと抜けるような
そんな辛さなんだろうな。
その辺に、作中に表現されてない重要な工夫が隠されているのだろう。

たぶん、その辺まで再現するのは、シロウトには無理だろうな。
でも、まあいいのだ。
ボクは、かつて味平カレーを本当に食べた。
「包丁人味平」を読んでいた小僧だったあの頃、ボクは味平カレーをほうばり、ブラックカレーに酔いしれ
鉄竜のラーメンを、はふはふ言いながら食っていたのだ。
今、思い返して、口の中に確かに味が残っている。

味平カレーは、本当においしかったよ。

 

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