プレイボール 丸井のタイヤキを喰らう
野球マンガの名作、「プレイボール」。
この非常に淡々とした、しかし確かな面白さを持つ名作は、今なお多くのファンから強い支持を受けている。
そう・・。ボクもまたかつてプレイボールに熱狂した一人だ。
とはいえ、のっけから身もフタもないことをいってしまうが、ちばあきお氏のマンガには漫画メシの魅力が、無残なほどにない。
どれほど無残かというと、墨高野球部のOB達が、なにやら凄いご馳走を振る舞ってくれる回があって、ナイン達が喜ぶ場面がある。
そのメシの絵がこんなの。
「プレイボール」集英社文庫10巻P.22より引用
スゴイご馳走らしきものが並んでる図
いや、ジャーンじゃなくて。
まあ、いいか。
プレイボールは別にストーリー中心のマンガだし、メシがうまそうかどーかなんて、どーだっていいんだけどね。
それじゃあ、なんで今回、漫画メシにプレイボールを取り上げたかというと、この作品でただ一人だけ、ある食べ物に怨念を燃やす男がいるからだ。
その男は、丸井。
断言しよう。
丸井は、タイヤキが好きで好きでたまらないに違いない。
彼はことあるごとに、キャプテンの谷口を誘ってタイヤキを食べようとするんだ。
「谷口さん。帰りにタイヤキ屋でも寄りませんか。」
「谷口さん。タイヤキでも食べませんか。僕がおごりますよ。」
丸井の声が聞こえてくる。
彼の心の声が、
「タイヤキが喰いてえよ〜。ほっかほかのタイヤキ。ああ・・、タイヤキがあれば俺は野球なんてどーだっていいんだ〜。喰いてえ〜、タイヤキ〜。」
くッ、不憫な。
だが、可哀相なことに、丸井はいくらタイヤキを食おうと谷口を誘っても、奴にことごとくいなされてしまうのだ。
人がおごるっつってんのに、まったくこの男ときたら、「タイヤキはまた今度にして偵察に行こう。」、とか言い出すし、珍しくタイヤキに付き合うのかと思いきや、その道程、丸井の守備の欠点を指摘して、夜の河川敷で突然ノックを始める始末だ。
熱のはいったノックを受けながら、心の中で呟く丸井のセリフが泣かせる。
「どうやら、タイヤキのことは・・。すっかり忘れちまったらしいぜ。」
この野球バカ!
タイヤキより、大切なものがこの世にあるか!
丸井が、陣中見舞いにタイヤキをたずさえて谷口の家に訪れた時なんか、あろうことか、谷口は一人でぜんぶタイヤキを食っちまいやがった。
なんて奴だ。谷口め!おまえは鬼か・・。
あまりにも不憫な丸井を偲んで、このたびはタイヤキを喰らうものとする。
丸井が谷口のために買って来たタイヤキは、「浪花屋」のものだという。
浪花屋といえば、名店として知られるタイヤキの老舗。
本店は麻布十番にあるんだけど、南千住と両国に支店がある。
おそらく丸井は、南千住か両国のどっちかの店で買ったと思われる。
どっちでもいいけど、ボクのアパートから比較的近い両国店へ行く。
老舗のタイヤキ屋である両国
「浪花屋」
ここで一つ、老舗に代表される伝統的なタイヤキと、スーパーや屋台で売られる一般的なタイヤキとの違いを説明しよう。
作り方は次のとおり。
タイヤキ屋の老舗である浪花屋や、人形町の柳屋といった、お店では、タイヤキ一個つくるのに一つの金型を用いて焼き上げる。
何本もの金型を火の中に突っ込み、職人がせわしなく、ガチャガチャと金型をひっくり返しては、焼きあがったタイヤキを取り出し、新しく身を詰めた金型と取りかえて、また焼くといった作業のルーチンを繰り返す。
おそらくこの方法には、つくるのにかなりの熟練が必要と思われる。
一般的なタイヤキのつくり方は、ご存知だろう。
列上に並ぶ鉄板にタイヤキの型が複数ほりこんであって、金型のオス列とメス列の鉄板がある。
オス列でタイヤキの表面を焼いたら、メス列の鉄板を被せてひっくり返し、裏面を焼いていくという方法。
おそらく、伝統的焼き方とは違って、それほど熟練を必要とせず、誰でも同じものがつくれるのだろう。
仕上がりは、次のとおり。
見た目では、焼き色が違うことがわかる。
浪花屋のタイヤキ 焼きあがりが白い。部分的にコゲがある。
一般的なタイヤキ 焼きあがりが濃い。仕上がりが均一。
味の違いといえば、まず伝統的タイヤキである浪花屋の方は、身が薄くて、皮がパリッとしている。
皮自体が薄皮なので、アンコの比重が大きい。
そのため、アンコの甘さが控えめになっている。
とても食べやすい。
一般的タイヤキは、身が厚く、皮はしっとりとしている。
皮が厚く、それを受けとめるためだろう、アンコは伝統的タイヤキと較べて少し甘いようだ。
ボリューム感がある。
仕上がりでいえば、一般的タイヤキが均一の焼き色に仕上がるのにたいし、伝統的タイヤキは一個ごとに多少のムラが出る。
とはいえ、伝統的タイヤキの焼きあがりの色はとてもうつくしい。そして、その個別のムラにこそ、味わいや安らぎを見いだす人もいるかもしれない。
味の点では、これは人それぞれの好みになると思う。
どちらも、良さがあるだろう。
ただし、一つだけ言いたい。
ボクは伝統的タイヤキと出合うまで、タイヤキという食べ物を誤解していた。
タイヤキは今川焼きと一緒だと思っていたし、ただ単に形を変えて違う名の食べ物にしただけだと、思っていた。
でも伝統的タイヤキを食べて、認識をあらためた。
なるほど、タイヤキはタイヤキなんだな、と思った。
異論はあるかもしれないが、一般的タイヤキが食べたい気分でも、別に形にこだわらなければ、今川焼きを食べたってかまわないだろう。
そう。丸井がわざわざ浪花屋まで行ってタイヤキを買って来た理由はそこにある。
丸井は、タイヤキが食べたかったのだ。
今川焼きでもない。
一般的タイヤキでもない。
タイヤキこそを食べたかった。
くッ、不憫な。
というわけで、浪花屋のタイヤキを喰らおう。
皮がサクッとしていて、それでいてしなやかだ。
ムホッ、皮とアンコが見事に融和して、絶妙のシンフォニーを奏でておるわい。
アンコ自体もいいものなのか、とてもウマイ。
一般的タイヤキもおいしいことはおいしいけど、重くて一個食べたらもう、もたれる感じなのにたいし、浪花屋のそれはとても食べやすくて、いくらでも食べれそう。
そう。ボケのタカオは、のほほんとタイヤキをばくばくばくばく、ぜーんぶ食っちまいやがったけど、それは浪花屋のタイヤキだから、それだけたくさん食べられたんだよ。
なんという皮肉よ。
タカオのかあちゃんが、その後タイヤキを買ってきてくれたけど、あ〜あ、きっと一般的タイヤキだよ。
それで、丸井は1、2個食っておなか一杯なのに、ボケのタカオから、「遠慮しないでもっと食べろよ。」とか言われんだぜ。(注:主催者の脳内ストーリーです。念の為。)
くッ、不憫な。
丸井が食いたかったのは、浪花屋のタイヤキなのに・・・。
丸井はプレイボールの連載終了に至るまで、結局、目に映る場面では、ただの一度もタイヤキにありついてないんだ。
みんなも、浪花屋もしくは伝統的なタイヤキを食べるときは、丸井を思い出してやってくれないか。
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